アトリエ トモンド 別館

アトリエ・トモンド別館

ヴィラッジュ・アルティザナル(1)

 

『思いつきファイル』(電子版のほう)に入っていた写真。

 

 

 これらの写真も、いつ撮ったものか思い出せない。もう20年以上前だとは思う。被写体はたぶん、セネガルの首都ダカール近郊の民芸品店で買った木彫りだけど、実物はもう手元にない。

 ダカールの市内から海岸沿いを車で20分ほど走ったところに、土産物屋街があった。地元の人たちはフランス語で「ヴィラッジュ・アルティザナル」と呼んでいた。日本語にすると、「手工芸村」とでもいったところだろうか。

 人物や動物をモチーフにした木彫り、お面、民族衣装を着た人形、皮製品なんかを売る小さな店が、軒を連ねていた。ところどころにアトリエもあって、大小さまざまな人形を彫る様子も見ることができた。

 活気があって楽しい場所なのだけど、ゆっくり品物を眺めていることができないのにはちょっと困った。どの店でも、一歩足を踏み入れた瞬間から、店員がのべつ幕無しに声をかけてくるのである。

「アミーゴ!ハロー!ボンジュール!ニーハオ!この木彫りいいね?安くするーね。チャイニーズ?ジャパニーズ?ノープロブレム。グットプライス。アミーゴ!」

 基本的にセネガルの人たちとはフランス語でやりとりをするのだが、このヴィレッジ内では何故かどの店でも、「アミーゴ!」というスペイン語での呼びかけに始まり、英語とか中国語とかヘンな日本語なんかが混ざる、ほぼ定型フレーズでの呼びかけなのだった。

 たとえば、なかなか良いなと思う動物の木彫りを手にとって眺めていると、嬉しそうに店員が飛びついてくる。 

「お。気に入ったかい?あんたなら、これいくらで買う?キリンあるぞ。カバもいいぞ」

「ごめん。買うつもりはないよ」と答えても、そこで会話は終わらない。

「んー?あんたなら、このカバをいくらで買うかって聞いてるんだよ」

「買わないのに、そんなこと聞かれてもね」

「フランス語がわからないのか?俺はあんたに、このカバにいくら値をつけるかって、聞いてるんだ」

「しょうがないなあ。1500セーファー(約300円)くらいじゃないの?」

「!?なんだって?そうか、あんたには物の価値ってもんがわかってないみたいだな。いいかい、これは最高の素材を使って、職人が手作業で丹念に作ったものなんだ。1万セーファーでどうだ?」

「ふ~ん。ずいぶん高いんだね」

「高いって?じゃあ、いくらなら買うんだ?相談に乗ろうじゃないか。あんたは友達だ。アミーゴだ」

「最初から、買わないって言ってるだろ」

「買わないって?じゃあ、なんで値段の交渉はじめたんだ?」

「はじめたのは、あんたじゃないか」

「そう言うなよ。アミーゴ。相談に乗るぜ。いくらなら買うのか、言ってごらんよ」 

 

「いらないっての。ツカレルなあ、面倒くさいなあ・・。」

ひとりごちながらも、こんな掛け合いをけっこう楽しんでいた自分を思い出す。

(続く)

 

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