アフリカで釣りをした話。
上の3枚の写真は、入っていたフォルダの名称が『2009-2010_年末年始_ダカール』となっているので、西アフリカ・セネガルの首都ダカールまたはその近郊で撮ったものであるはずだ。釣れた魚の写真は、たぶんハタの類だと思う。
私は釣りが好きで、長期の出張や駐在先の国々で、休日によく、海や川、沼などに釣りに出かけた。
だから『思いつきファイル』には、ほかにもあちこちで釣りをした時の写真や、釣りにまつわる、エッセイ風の日記がいくつかある。下はそうした日記のひとつだ。書いた時期も場所も正確なところは忘れてしまったけれど、おそらく西アフリカ・ギニア湾沿岸のどこかの国での出来事だったと思う。
***
― 良く晴れた日曜には、こんなふうに河口近くの橋の下で、のんびり釣り糸を垂れるのがいい。魚が釣れることはほとんどないのだけれど。
今日の釣果は、だらりとのびきった茶色い靴下片足分と、65cmx80cmくらいのポリ袋一枚。どちらも、竿はかなりしなった。
釣れなくったっていい。こうして水のある場所でぼんやり過ごす時間が、僕は好きだ。
東京はもう、秋の冷たい雨が降り始めている頃だろうか。
こちらは相変わらず、夏である。思えば、ずーっと夏だ。いつも同じトロピカルな花が咲いていて、いつも同じ野菜が市場に並んでいて、いつも同じ青空にでっかい太陽が浮かんでいる。
もしかしたら、ここでは時間が流れてないんじゃないだろうか?ある夏の日を境に、時間が止まってしまったのでは?それなら、僕はここにいる限り歳をとらないんじゃないだろうか。
そんなわけありませんね。はい。鏡を見れば、すっかり白髪が目立つようになった今日この頃です。
河口の向こうに拡がるギニア湾の海原に、大きなコンテナ船が浮かんでいる。どこの船かな。何を積んで、どこに行くんだろう。
もうじき日が暮れる。さあて、そろそろ帰ろうか・・。
大きく伸びをして後ろを振り向くと、つば付きの黄色い帽子を被った若者がひとり、口笛を吹きながらこちらに向かって歩いてきた。のんびりした足取り。若者は、僕の手前2mのところで立ち止まり、何も言わず、ゆっくり空を見あげた。
僕は、川に視線を戻す。淀みに浮かせた赤い玉うきが、水面に小さな円を描いている。下で小魚が餌を突いているのだろうか。くいっと引っ張って、少しうきの位置をずらしてみる。沈む様子はない。
横に立つ若者のほうから、衣擦れの音が聞こえてきた。
…ん?
若者に視線を向ける。
え? 僕は少しひるんだ。
見れば若者が、するり、するりと履いていたズボンとブリーフを下ろしているのだった。
え。え。え?
若者はそのまま、川に背を向けてよっこらしょとしゃがみ込み、膝の上に肘を乗っけて頬づえをついた。
「え。・・う・ん・?」
川面に夕日が反射して、きらきら光っている。船着き場に繋がれた小さなボートが、波に揺られてチャプン、チャプンと音をたてた。
やがて若者は、ゆっくりと立ち上がった。川の流れに運ばれていく自分の分身を確認しながら、ブリーフを履き直し、ズボンを上げ、しまり具合の悪いファスナーを少しがにまたで立ってくいっくいっと指で持ち上げた後、
「釣れるかい?」
僕に屈託のない笑顔を向けて言った。
「いやあ、さっぱりだね」
僕も笑みを返す。もうひるんではいなかった。
沖に向かうコンテナ船が、「ボー」と少し長めの汽笛を鳴らした。
さあ、今日はもう、帰ろう。
***
後半、かなりシュールなかんじになっているが、すべて現実の話である。時と場所は思い出せないが、目にした光景ははっきりと覚えている。
さて、これは釣れなかった日の記録だが、もちろん釣れた日だってある。冒頭の写真にあるセネガルの海岸ではハタの他に、マダイやイシダイなんかも釣れたし、セネガル川だったかニジェール川だったか、西アフリカを流れる大河では、大きな電気ナマズを釣り上げたこともある。釣り上げて掴んだら、ビリっと痺れた。
それらの写真もフォルダ内のどこかにあるはずなので、見つけたらここに追加しようと思う。